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杉本のヘルベテコラム「地図」

 仕事柄、地図を読むことが多い。きょうも住宅地図を手に取った。思い起こしてみれば近頃は、プライベートでもスマホで地図を見ることが頻繁になった。地図って、思いのほか身近な道具なんだと気づく。

 

ということで今回は、地図について考えてみたいと思う。

 

 地図には不思議な魅力がある。作家の安部公房は「地図には無限の情報が含まれている」と語った(注1)。地図を眺めているうちに当初の目的を忘れて、気づいたら情報の海に溺れている。そのようなことは、私だけの経験ではないはずだ。

 


 ひとことに地図といっても、さまざまなものがある。どんなものがあるのか気になって、地図について載っていそうな参考書を紐解く。世界史の教科書をパラパラ、地図帳をペラペラ。いまいちわからなかったので、ググる。グーグル先生はとある地図を教えてくれた。それは「TO図」を呼ばれる地図である(注2)。


 「TO図」は中世ヨーロッパで使われていた「世界地図」だそうだ。当時の全世界(ヨーロッパ・アフリカ・アジア)を主要な海や川で分けると、ちょうど「O」の字を「T」の字で三分割したように見えるのだという。非常にシンプルで、想像力を養うのには役立ちそうだが、はっきりいって実用性はほとんどない。なぜこんなものがあったのだろうか。私なりに推測してみたい。


 当時のヨーロッパは封建制。他の地域との交流がほとんどなかった。つまり、移動がない、ということで通商目的の実用的で広範な地図は求められなかっただろう。当然、領民や領主にとってもほぼ無用だったはずだ。領地内のことだけ分かっていれば、日々の生活はそれで十分なのだから。もし地図を使うとしたら世界地図。当時は民衆の世界観はキリスト教により構成されていた。神父さんが説法中に世界の象徴、つまり世界とはどういうものかを示すのに使うものが地図だったのだ。地図は実用性を求められず、もっぱら(宗教的)想像力の涵養に使われる。そのような目的で作られた「TO図」は、当時の知識をベースにしてキリスト教的世界観を表した、独特な世界地図となった。


 愚考は置いておこう。その「TO図」はバラエティが豊かだ。ちょっとググっただけでも眩暈がする。例えば、シンプルだったものが、時代が下り知識が増えていくにつれ、地名や都市の書き込みが増えていく。親戚の子どもの成長を見ているような微笑ましさがある。でもそれだけではない。知識の不足は想像力で補う、と言ったかどうだか、変ないきものが書き込んであるものもある。書き手の遊び心が伝わってくるようだ。

 


 さて、ここまで書いてきたのは過去の地図についてのお話でした。昔の話だけではつまらないでしょうから、ツイッターで見つけた面白い記事を紹介いたします。現在進行形の地図のお話です。

 

『氷河学者がつくった「架空の地図つぶやきボット」の誘惑』

 

 詳細はリンク先を読んでください。……飛ぶのめんどくさいよって方のために。要は、架空の地図を自動生成してツイートしてるぜすごいぜ、ってニュースです。


 いままでにも似た試みはあったようですが、今回のプログラムのすごさは、その再現性の高さ。実際に作られたものを見てみれば納得していただけるはずです。


 コンピュータが自動生成した架空の地図。そこには地図としての目的も実用性も全くありません。地理学の研究者やプログラマーといった専門家ならともかく、少なくとも私にとっては全くの不用品です。もちろん先ほどの「TO図」にも実用性はほとんどありませんでした。しかし「TO図」には布教、教育といった宗教的な目的がありました。この地図集はまさに純粋な遊び道具なのです。

 

 

 架空の地図を眺めながら、あれこれ想像する。架空の動植物、街並み、民族、人びと。思いを馳せれば馳せるほど、世界が創られていく。そうしている間にも、新しい地図が生成される。別の地図には、別の物語がある。あるいは想像する人によって、読み手によって、別の物語が書き加えられていく。どんどん想像は膨らんでいく。その積み重ねは、人知の及ばないような情報量となっていることだろう。情報量の爆発だ。それは人間の想像力とコンピュータの情報処理能力との根競べのようにも思われる。(杉本〠)