杉本のヘルベテコラム「アメリカ大統領選」
先日、アメリカの大統領選が行われました。ご存知のように、ドナルド・トランプ氏が勝利しました。選挙戦の模様は日本国内でもたいへん話題になりました。トランプ氏の掲げる政策はいわゆる孤立主義で、選挙戦ではオバマ現大統領の政策との違いを大きくアピールしていました。ですが彼を有名にしたのは政策よりもむしろ言動です。ニュース・バラエティ番組などでも、彼の「歯に衣着せぬ発言」がセンセーショナルに取り上げられていました。
トランプ候補の「発言」は、おそらく彼の政策を分かりやすく人びとに伝えるための手段だったのでしょう。選挙戦後のトランプ氏からは、「発言」のとげとげしさが後退しているようです。選挙戦後に行われたオバマ大統領との対談もいさかいなく終わりました。これが次期大統領としての風格なのでしょうか。
トランプ氏当選の報を聞いて、私はある1冊を思い出しました。ジュリー・オオツカさんの『屋根裏の仏さま』です。日系移民の花嫁となるべく、旦那の写真だけを頼りに渡米していった、「写真花嫁」たちを題材とした小説です。作中の後半で、太平洋戦争が勃発します。この戦争中にアメリカ国内で最も強い差別をうけたのは、日本人だったそうです。彼(女)らは差別によってすべてを奪われてしまいます。しかもそれが日本人だったとすると、さすがに他人事ではいられません。これを読んで、私は差別される痛みをひりひりと感じました。
選挙戦ののち、アメリカ国内は混乱しているそうです。マイノリティへの差別意識を露わにした事件だけでなく、トランプ氏支持者を狙った事件も起きているそうです。強い差別は忌わしいものです。願わくば同じようなことが2度とないように、と思う次第です。
参考:ジュリー・オオツカ/著、岩本正恵/訳、小竹由美子/訳『屋根裏の仏さま』2016年、新潮社。